観劇鑑賞ADME録

色んな作品を咀嚼するブログ。ネタバレしかないです。

【舞台感想】浪花節シェイクスピア 富美男と夕莉子

観劇日:2022.5.29(日)
2022年の作品。

今激アツの舞台演出家末満健一が脚本、演出を担当する、話題の舞台『富美男と夕莉子』大阪初日に行ってきました!!!!!!
なお翌日が大阪千秋楽です は、早すぎるよお……
TLでもめちゃ評判良くて日々期待値ガン上がりしていたのですが……

すっごい良かった………

なんていうか、最近の『末満健一』節をめっちゃ感じた。お前末満健一の何を知ってるの?いや何も知らないけど……。個人的な感想です……。

とにかく、良かった………………

基本的にシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を下敷きにしているので、原作に造詣が深ければ深いほど楽しめる劇だろうなと思います。シチュエーションだけでなく台詞の改変も上手いらしい。なお私は今日がロミジュリ初見です。前説の時「ロミジュリ見たことない人〜」で拍手した数少ない一人が私ですよ。みんな見たことあるんだ……そらそうか……。登場人物なんかそれこそロミオとジュリエットしか知りません。結構出てくる人の数、多いんだね……。
そんな私でもめっちゃ楽しめる『富美男と夕莉子』だったのですが、やっぱこういうとこで『教養』の差が出るな……と思いました。人生の厚み、今からでも増していきたいぜ

おおまかあらすじ

富美男と夕莉子が死んでしまった!
浪速坂を舞台に対立する任侠一家、紋田木家と九羽平家の一人息子(一人娘)、紋田木富美男と九羽平夕莉子が、二人寄り添って死んでしまった!!
どうしてうら若き二人は死に至ったのか?二人に何があったのか??
二人の死を嘆き悲しむ周囲の人たちは、残された『交換日記』の断片を手掛かりに、二人の恋の五日間を追体験する。

何が、二人を死に至らしめたのか?


全体的な感想

ここはなんばグランド花月ですか?
梅田芸術劇場シアタードラマシティです
目眩くマシンガン関西弁!!!!!ギャグへの気合の入り方尋常じゃない。全員もれなく体張り過ぎ。勢いがマジで途切れなくて見てて気持ちよかったな〜。浪花坂、通天閣の近くらしいからじゃりン子チエとかと舞台同じな気がする。時代は違うけどね。

まず開演前のステージの時点で、舞台装置がすっっっっっっっっごい、素敵!
花札モチーフの舞台装置に衣装。赤を基調にした照明。登場人物の服装も赤基調。黒子役は狐面。
凄く艶やかで、ただ眺めてるだけでも満足感が凄かった……
照明がとにかく綺麗で、ちょっとした場面転換とかキーとなる登場人物に焦点を当てる時のスポットライトとか、凄く美しい上に分かりやすくて、舞台ど素人目にもコイツは凄いな……と舌巻きっぱなしでした。これ円盤でじっくり見たいな……えっ円盤も配信も無いんですか!?そんな……(泣)

とにかくスピード感とテンポが良くて、2時間10分の上演時間中もう全く退屈しません。というか原作と時系列を真逆のバラバラにしているのが面白かった!ロミオとジュリエットの物語なんて大体みんな知ってますもんね。私はあんまり知らなかったけど……(でもちゃんとストーリー解りましたよ)。
『二人の死』という結末からゆっくり話を遡って、最後に二人の出会いを描くことで、ロミオとジュリエットではない『富美男と夕莉子』のテーマを鮮やかに表現する手法がマジでパネエなと思いました。

残されて悲しみに暮れる人達は皆「誰の(何の)せいで二人は死んだのか」という理由を探していて、その答えの候補は作中で幾つも出てくるんですけど、最終的には「二人が出会ってしまったから」となるんですよね。
勿論それはある意味で間違っていないんだけど、そこで死んだ二人はそれでも”出逢いを後悔していない”、例え結末が分かっていたとしても”出逢いと恋を肯定する”と叫ぶ、

あの瞬間、この『富美男と夕莉子』という劇が、悲劇でなく喜劇に描かれている理由がわかって、ちょっとまともに泣きそうになりました。てか泣きました。

末満健一さんの物語……(ここから個人的な意見)えげつねえ悲劇に帰結しがちなんだけど、そこに至るまでの全てを基本的には『肯定』してるんですよね。私はそう感じる。なんていうか……悲劇は悲劇だけど、他人がそれを悲劇として消費するなという圧を感じたりします。というかCOCOONのダリデリコさんにはラストで直接怒られたし……あの時は内心(お、お前当事者じゃないじゃん……)とか思わなくもなかったですけど、今回はまさしく当事者、富美男と夕莉子による叫びなので、グッッッ……と来ました。
もちろん解釈によっては既に二人は死んでいるので、二人の叫びというよりは日記の内容から周りの人達がそう解釈した、とも受け取れる。というか私はそう思った。

……とここまで色々、私なりに理屈をこねこねしながら書いたけど、あのラスト15分くらいの例の『盆踊り』、あそこでもう全部持って行かれてしまってもうダメでしたね。
あんなんずるい。
生の演劇って本当凄いな……ってまた今日改めて思いました。もうなんか、理屈じゃないんよね。理屈じゃ無いことをパワーで理解させる演劇という表現技法に完全に負けた。あの演出は涙が出ちゃいました。恋は理屈じゃない。あのシーン本当に良かった……えっ円盤無いんですか???そんなあ(泣)


登場人物について

  • 紋田木富美男(ロミオ・モンタギュー)

ヤクザの息子さながらのオラオラ系。アホながらも真っ直ぐで直情型なのが主人公〜ッ!!て感じ。人となりについて夕莉子色んなあれこれが似ています。それだけで二人を応援したくなる!良い意味でアホなので恋愛で更にアホになっても全然気にならないのがキャラ造形強いな〜と思いました。
おざわりん(ロザライン)に振られてブロークンハートしているところからの夕莉子への一目惚れ。原典知らんかったので、えっ女に振られてからのまた女……?(笑)という気持ちに、ならなかったといえば嘘になる……
けどまあ……恋に落ちるのに理屈とか要らないんよね……って例の盆踊りシーンで痛感しました。あのシーンマジでずるいと思う。演劇のパワーが詰まっていた。

  • 九羽平夕莉子(ジュリエット・キャピュレット)

め〜〜〜〜〜っっっっちゃ可愛い!!!!!
元気で美人な娘さん!!衣装めっちゃ好き。富美男も惚れるよそりゃあ……。すぐ舌を噛んで死のうとする。超わんぱくで世話係の天子さん大変だろうなって感じ。
私はジュリエットさんのこと知らんけど、夕莉子ちゃんはとにかく元気でエネルギッシュで『今を生きてる』ので、こちらも恋路を応援したくなりました。
死ぬ時も悲劇性より「こうなったからには仕方がない!」みたいな、ある種の潔さが見ていて気持ち良さすらありました。

  • 盧 蓮司(ロレンス)

スナック・スズカケのマスター。名前あったんだ……(パンフ見た)。原典知らん私でも元ネタの名前まるわかり。この人も良いキャラしてたなあ……しょっぱな取り乱しすぎてヤバかったけど普段は良い相談役おじさんなんですね。靴わざと脱ぐな。

  • 牧 秀宝(マキューシオ)

貴重な堅気の男の子。の割に連んでるの全員ヤクザっていう……。とみゆり以外で白塗りじゃない稀有なキャラです。やっぱ町内会長の息子だから良いもん食ってるのかな。
とにかく安定感のある良い人なので死んじゃうのがつらかった。良い奴は大体死ぬか死ぬほど苦しむよね……。

  • 九羽平千代蔵(ティボルト)

言うなれば悪役というか、運命を悪い方に舵切らせるキーマン的な人です。でも人間臭くて好き。里子ちゃんとのお祭りのシーン好きですね。あそこは時系列を逆さに紡いでいる脚本の勝利だった。里子……(泣)
富美男との歪み合いを散歩中の犬の喧嘩に喩えられてたの上手すぎて爆笑しました。好き。

  • 紋田木家・九羽平家の親世代

全員良いキャラしてんなあ〜〜〜!!!
若い頃はブイブイ言わせてたのがポロリしまくるの草でした。あんたら夫婦仲良いよね。金の銅像のくだり草だったけど、この感想文書きながら原典ググりまくってたらここ原作通りでびっくりしました。まあ中世の……価値観だからな……。朝チュンシーンで発狂する夕莉子パパはドンマイでした。

  • 針須倫太郎(パリス)

お前のことマジで一番好き。
出てくる度に大喜びしてました。マジでヤバいやつ。何が、とかじゃない。理屈じゃあないんだ。意味不明すぎて最高でしたね。別に変なことは言ってないんだけど。存在がやばかった。
マジで良いキャラしてたな………………。


まとめ

本当に良い話でした。元気の出る悲劇。いや喜劇。
ストーリーも演出も、衣装も照明も小道具もテンポもセリフも何もかもが良かった!!

とにかく『良い』ので大阪公演が少ないこととか円盤収録・配信のない事が殊更残念なんですが、やっぱり生の演劇ってすごいんだな〜〜〜〜〜ッッッ………て痛感されられました。本当良かった。

今日はいい夢が見られそう。なんとなく。